第68回ロシア語サロン
最新モスクワ事情

                  インガ・トルスチーヒナ

 私は7月23日にモスクワから来たばかり です。最近のモスクワについてお話しましょう。モスクワは世界一物価の高い町になりました。ガソリンは今一リットル百円もします。石油を輸出している国な のに日本と比べてあまり安くありません。アパートも高くて、あまり都心とは言えない私のアパートのあたりでも一平米あたり四千ドルもするようになりまし た。赤の広場のまわりも古い建物が修復され、ソ連時代の目障りな建物が壊されてどんどんきれいになってきています。こういう仕事を担当しているのは普通の 建設会社ではなく特別な会社で、特に古い歴史を持つモスクワの中心部はその歴史に配慮しながら建物の修復が進んでいます。赤の広場からの眺めをさえぎって いたロシアホテルもインツーリストホテルも壊されました。モスクワホテルは外観を変えないように建て直されて内部は最新鋭の設備が整えられました。古い教 会の修復も進み、新しい教会も作られています。モスクワの町をぐるりと取り巻くサドーヴァヤ環状線と一番外側の環状線との間に第三環状線ができました。こ こは信号のない高速道路です。いまのところ道路はすべて無料で通れますが近い将来都心に向う車には料金を課すことになるかもしれません。イケアやアシャー ンなど大きなスーパーが増えました。比較的安い値段で買物ができますので車で行って一週間単位で食べ物を買ってきます。たとえばわが家は18歳の息子との 3人家族ですが食費はだいたい二万円くらいです。(この予算では毎日キャビアを食べるわけにはいきませんが)その他に住居費、車の経費、交通費などでだい たい十五万円は必要です。劇場や美術館などは以前はすべて国営で料金もごく安かったのですがチケットはなかなか手に入りませんでした。今は私立の劇場や美 術館も増えました。チケットは高いのですがお金があればすぐ買えます。今ではボリショイ劇場でバレエを見るとするとチケットは五ー六千円です。

 大学ではしばらく前までは金融や経済を専 門とする学部の志望者がとても多かったのですが最近はまた工業系の学部を目指す人が増えてきています。モスクワ大学でこのような学部の入試の倍率は七倍に もなりました。モスクワ大学の学費は一年で約百二十万円です。他の大学はもう少し安いと思います。ソ連時代は学費は無料でした。今ではどこの大学でも学費 を払って学ぶ学生と授業料免除の学生がいます。入試の成績が優秀であれば学費は免除されます。成績が悪い場合はお金を払って入学させてもらうケースもあり ます。全体としてモスクワは清潔になりました。中心部だけでなく郊外も地下鉄の中も。最近はウクライナやモルダビアなどから来た人たちが清掃員として働い ています。清掃員の給料はあまりよくありませんが それでもモスクワの清掃員なら彼らにとってはいい稼ぎになるらしいのです。いわゆるブランドショップが たくさんできました。グッチでもアルマーニでもなんでもあります。高級な外国車も増えました。今までモスクワには国際空港はシェレメーチェヴォ空港しかあ りませんでしたが 最近は以前は国内線の空港だったドモジェードヴォ空港とヴヌーコヴォ空港にも国際線が発着するようになりました。日本からドバイを経由 してドモジェードヴォ空港に飛ぶ便もあります。

質問に答えて:

1)私立の大学はありますか?

  はい、あります。ペレストロイカの後 一時は非常にたくさんの私立大学ができまし た。ただその後一定の基準を満たしてないとライセンスがもらえなくなり 数は減ったと思います。

2)先ほど家計の話がありましたが そんなに物価が高いとすると若い人はやっていけるのでしょうか?

科学アカデミーで働く人の月給の平均は十万円ほどですがこれは国家からもらう賃金です。たいていの 研究所ではそのほかに外国の研究所や会社と契約を結んで共同研究などをして収入を得ています。わが家の場合は夫と二人で働いていますし、夫はモスクワ大学 でも教えていますのでいくらか余裕があります。でも大学を出たばかりの若い職員の月収は800ドルくらいで これだけではとても生活ができません。これが 若い研究者がアメリカなどに出て行ってしまうことの一因となっています。ただ、自分でビジネスをしている人、また石油や天然ガス関連の仕事をしている人た ちで多額の収入を得ている若い人もたくさんいるはずです。

3)30年ほど前ソ連を旅行した時 空港で写真を撮ったら警官にフィルムを抜きとられたことがありまし た。今では自由に撮影ができますか?

   今でも写軍事上の観点から真撮影禁止のところはあると思います。また教会は宗教的な意味で写 真を撮ることは禁じられていると思います。日本のお寺や神社では写真を撮ることは自由のようですが ロシア正教では教会内でのルールがあり、例えば女性は 髪を覆うことなど 外国人でも守ることを要求されます。美術館では写真を 撮るために別料金を払わなければならないところも写真撮影が一切禁じられているところもあります。お店では写真撮影はオウナー次第で許されるところもある とは思いますが一般的にはだめでしょう。でも今ではフィルムを抜き取るというようなことはありませんよ。以前にくらべればずっと自由になったはずです。

4)和食の店は?

たくさんあります。一番ポピュラーなのは「ヤキトリヤ」というレストランで焼き鳥だけでなくすしや てんぷら、そばなども食べられます。ここは比較的安い店です。でもてんぷらに味噌汁とご飯で2500円くらいはするでしょう。「たぬき」「たけ」「高尾」 などという名前の店もあります。回転寿司もありますが 日本だったら二個で120円くらいのマグロの寿司が 1個あたり300円くらいもするので高い食べ 物です。

5)ロシアにお土産を持って行きたいので かさばらないお土産をさがしているのですが。ハンカチはよく ないというのは本当ですか?

   私は全然気にしませんが 迷信深い人の中には嫌がる人もあるかもしれません。かさばらないお 土産なら うちわはどうですか?

6)プーチン大統領は全然笑いませんね。ゴルバチョフやエリツィンは酔っ払うなど欠点はあっても 人間 的に親しみが持てたのですがプーチンさんはとても冷たい感じがします。

まずプーチン大統領は傾きかけた国を立て直すという大きな責任と使命を背負って大統領になりまし た。そのためとてもニコニコしてはいられなかったと思います。最初の頃はエリツィンの影響下にありましたが 今は自信をもってすべて自分で考え決めていま す。もともとドイツに長くいてKGBの仕事をしていたのですから仕事柄あまり微笑むことも必要ではなかったでしょう。ドイツ語はとても上手でしたが大統領 になってから勉強して英語も話せるようになり、最近ではオリンピック招致のためにフランス語でスピーチもこなすなどとても努力していることは尊敬できま す。ロシア人は初めてどこに出しても恥ずかしくない大統領を持ちました。彼の任期が終わった後どうなるかですが 今のところこれといった後継者もなく 私 は彼が憲法を変えて大統領を続けると予想しています。最近イギリスでもフランスでも首相や大統領が代わりましたが こうした国々に比べてロシアでは大統領 の権限が大きいので民主主義のためには大統領選で大統領を選ぶべきだと思います。

7)ロシア人は英語が嫌いであまり勉強しないと聞いていますが、、

ほとんどの学校では5年生から7年間英語を勉強しています。息子の通った学校では一年生から教えら れていました。高校の最後の3年間はドイツ語も勉強しました。若い人たちは結構英語が話せると思います。特に科学の分野で仕事をしようと思ったら英語がで きなければ話になりません。

8)エリツィン大統領は相撲が好きだったと聞いたことがありますが ロシアでは日本の古典芸能や文化に 興味を持つ人は多いですか?

はい、今は日本に関することは何でもカッコいいことになっているので興味を持つ人がとても多いで す。茶道や生け花も人気がありますがこういうことを習おうとするととてもお金がかかります。最近ではお金持ちが自宅のインテリアを日本風にするのも流行っ ています。畳を敷いたり ふすまをとりつけたり日本風の庭を作ったり、、これもとても高価です。たとえば畳は日本から輸入しますから 一枚が600ユーロ もするんです。
 

9) 日本車は人気がありますか?

   はい。一番高いのはドイツ車でベンツやBMWが人気です。プジョーやシトロエンなどフランス 車もあり比較的安く手に入りますが故障も多く、日本車はとにかく信頼性が高くてドイツ車ほど高くないので トヨタや三菱の車は人気があります。

10)給料が少ない若い人たちはどうやって暮らしているのでしょう?食べ物にしてもなにか闇ルート のようなもので安く買える手段はあるのでしょうか?

食料の値段は店によっていくらか違いはありますが その差はわずかなものです。どこかに行けば特別 安く買えるということはないので節約するとすれば 新鮮な上質の肉を買うかわりに冷凍品で我慢するとか、量を減らすとか、フルーツや高級な食材は買わない とかしか方法がありません。

11)医療費は今でも無料ですか?

   具合が悪くなって地域の普通の診療所に行くなら今でも無料です。ただそういうところでは上質 の医療は期待できません。たとえば私は先日膝を怪我したのですが近くの診療所でははっきりとした診断ができませんでした。MRTという療法を受けたかった ので別の病院に行きましたが こちらは有料で一回の治療に150ユーロも払いました。ちょっと難しい病気にかかってよりよい治療を望むならお金がかかると いうことですね。

12)徴兵制度は今もありますか?

   はい、大学に行かないのなら18歳になると兵役があります。以前は2年間でしたが今は一年間 です。大学生には5年間の猶予期間があります。

13)各種学校はありますか?

   はい、ソ連時代からありました。たとえば美容師や配管工、電気工事技師などを養成する学校で す。今では「コレッジ」と呼ばれるようになりました。

14)大学進学率はどれくらいでしょう?

   ロシア全体では多分60%くらいですが モスクワだけに限ればもっと高いでしょう。やはり教 育でも地域格差はあってモスクワの子供は恵まれています。たとえば息子は高校の最後の2年間はモスクワ大学の先生の指導を受けることができました。地方の 子供たちにはそういうチャンスはありません。

15)ソ連時代に学校を見学して、午前中は普通の学科を勉強し午後は音楽の勉強をする学校を見たの ですが 今でもそういう学校はありますか?

  はい、あります。私自身もそういう学校の出身で9年間音楽を学びました。7歳で入学する時には  聴力やリズム感など厳しいテストがありました。最初の3年間は全員がピアノを習い 音楽の理論やソルフェージュなどを勉強します。その後はそれぞれの才 能に応じて楽器を専攻したり 理論に重点をおいた教育を受けたりしました。

16)先日新潟で地震がありました。柏崎の原発のことについてはどう思われますか?

  まず一番印象的だったのは柏崎市長の判断ですぐに原発が停止されたことです。政治的な判断とか ではなく地元民の安全のため市長が毅然として停止を命じ それがすぐ実行されたことがとても印象的でした。柏崎は世界最大の原発、なにか深刻な事態が起 こっていれば 停止しようとしても停止できないはずです。反対にすぐ停止できたということは深刻な事態には至っていなかったということだと思われます。



岐阜県土岐市にあ る核融合研究所に3週間の出張に来られたインガさん、ロシア語サロンのためにこの日は土岐から来てくださいました。93年からの6年間を名古屋で過ごした 彼女は第2回ロシア語サロンのゲストでもありました。当時日本の学校に通っていた息子のイリヤー君は飛び級して16歳でモスクワ大学に入学し(優秀!)今 は2年生。日本語はよく覚えているとのことです。

インガさんは具 体的に数字を挙げながら今のモスクワの様子を詳しく話してくださいました。特にモスクワ市内のアパートの値段は非常に高くなっているようです。「日 本から帰国した1998年当時はまだそれほどでもなかったのでアパートが買えたけれど今だったら大変でした。」とのこと。市内では古いホテルが壊さ れて新しく高級なホテルが建てられ、当然ホテル代も高くなってロシア旅行の費用も高くならざるを得ないようですね。                     服部記


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