第61回ロシア語サロン  2006.1.29

ロシアのおとぎ話の世界        マリヤ・スクリパチェンコさん

 今年初、そして新しい会館で初めての第61回ロシア語サロンが1月29日、開かれました。今回のゲストは、愛知万博のロシア館で通訳をしていたマリヤ・スクリパチェンコさんです。マリヤさんは現在、名古屋大学経済学部の二年生に在学中です。詩情豊かなロシアのおとぎ話の世界についてお話ししていただきました。

 こんにちは。私はマーシャ(マリヤの愛称)と申します。小さい頃、私は他の子ども達と同じようにおとぎ話が大好きでした。他の子たち以上に好きだったのかもしれません。なぜかといいますと、ロシアのおとぎ話の主人公がよくマーシャ、マーシェニカ、マリヤという名前をしているからです。

 「おじいさんとおばあさんがいました。そしてマーシェニカという可愛い孫娘がいました。」これはロシアの昔話の典型的な始まりです。

 おとぎ話がこう始まっても不思議ではありません。名前のとおり、昔話ができたのは昔の時代であり、その当時の庶民の生活が映じられています。おじいさん、おばあさん、イワン、マーシェニカ、アリョーヌシカとイワーヌシカ兄弟といった主人公も普通の村人です。
 古代ロシアの農民たちの生活ぶりを想像してみてください。村人たちが土地を耕し、小麦やライ麦などを作ると同時に家畜を飼い、果実やキノコ狩りをしていました。多くの農家に牛、アヒル、ガチョウ、ニワトリがいて、門番を番犬がして、屋根裏にすやすやとネコが寝ていました。どの農家にもいたその動物たちがよくおとぎ話に出てきます。

 例えば『ハブローシェチカちゃん』の主人公である牛のブリョーヌシカ、またニワトリのリャーバ、ペーチャ、ネコ君、ヒツジ君。もちろん、森の生き物たちも忘れてはなりません。森の王様の熊とか、キツネ姉ちゃんとかオオカミさんとか、ウサギ君とか。おもしろいことに、おとぎ話に出てくる森の動物がよく人間の性格、性質を体現していました。キツネは狡猾そのものであり、オオカミは残酷で、ウサギは意気地なしです。

 ヤガーおばあさん。年配の方なのに、非常に悪意に満ちた行動ばっかり。ニワトリの足が付いた小屋に住み、もっぱら臼にのって空を飛び回っています。しかもハンドルの代わりに箒!

 ロシアのおとぎ話が数多くありますので、まとめて話をすることは簡単ではありません。しかし、おもしろい分析結果があります。ロシア民俗文化、特に口承文芸の研究をしてきたウラジーミル・プロップが1937年に『おとぎ話の形態論』という論文を発表しました。その中でプロップはロシアのおとぎ話の多様性にもかかわらず、共通した要素があると指摘しました。一種の分類ですね。例えば「加害者の登場」という要素があります。話によって、加害者として小麦畑を踏み荒らしている馬とか、お姫様を誘拐する怪獣とか、リンゴ盗むジャルプチーツァ(火の鳥)などがいますが、状況は一緒です。あるいは、「主人公が試練されている」という要素です。一言で試練といってもいろいろ考えられます。人間の寛大さ、優しさが試されていることがあります(例えば釣られたカマスが自分を放してくれとお願いしたとき)。イワン王子様が飢えて、小さい動物を殺して肉を食べようとした時、その親が子どもを殺さないように訴えています。またいつか役に立つことがあるかもしれません。あるいは別の話の中に、真冬に森に捨てられた女の子がいて、いくら寒くても、厳寒(厳しい寒さ)という主人公の悪口を言いません。心強さと忍耐が試されています。以上のようないろいろなおとぎ話の共通した要素が30ぐらいあるとプロップが論文の中で明らかにしています。要素がつなげてある順番にも特定の法則が見られます。おとぎ話といってもそれなりのルールがあるわけですね。

 私はロシアのおとぎ話に、あふれるばかりの希望があるところが大好きです。主人公がいくらつらくても、ハッピーエンドが最後に待っています。いい方が勝ち、悪い方がその分報いを受けます。

 今日の話の準備をする際に、多くのおとぎ話が日本語に訳されているのを発見しました。もしみなさんにそういう機会があったら、ぜひロシアのおとぎ話を読んでみていただきたいのです。きっとその面白さが伝わってくると信じています

ロシア語サロンのページに戻る