「モスクワ最新事 情ーモスクヴィッチの視点から」
マクシム・アン
トネンコさん
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モスクワの今とこれから :生活者の視点より。旅行者へのア ドヴァイス
モスクワには昔から外国人に見せる ものがたくさんありました。クレムリン、ボリショイ劇場のバレエ、たくさんの博物館や美術館、クラシック音楽のコンサートやショウなど。
ソ連時代には 外国人はよくВДНХを(国民経済達成博覧会)見学させられました。それはソ連で達成された様々 なものを展示したものでした。学校の生徒たちが作ったコンピューターから実際に宇宙を飛んだ宇宙船まで。子供の頃、私はさまざまな記録を持った動物たちが 展示されたパヴィリオンに行ってきれいな馬や搾乳量の多い牛や巨大な豚を見るのが好きでした。
時は流れて80年代の末のゴルバチョフのペレストロイカの時代に、モスクワの人たちの間には国中のほかの地域同 様にワクワクするような気分が高まりました。それは言論の自由、出版の自由、それにグラースノスチという自由が与えられたからでした。グラースノスチとは 政府の意向に反するものであっても自分の意見を堂々と言えるようになったということです。そういう意見をインテリゲンチャの友人たちと台所で夜にひそかに 話しあうだけではなくて、新聞でマスコミを通じて自分の意見を自由に言えるようになったのです。しばらくしてミハイル・セルゲーヴッチ・ゴルバチョフがひ きいるソ連政府はボリス・ニコラエヴィッチ・エリツィンの指揮するロシア政府に代わりました。モスクワ市民は知らないうちにまったく違う国の国民になった のです。新政府はロシア国民が今度は資本主義国家を建設する事に決めました。多くの国民にとっては天と地がさかさまになるような事でした。国でなにがお こっているのか理解するのが困難でした。生活は不安定となり、人々は明日はどうなるのかと恐れ、無秩序が始まりました。同時に国家資産の個人による私有化 と資本の蓄積が始まり、そのままするすると資産の再分割に至りました。この三つのプロセスは要するに企業の指導的立場にあった人たちがその所有者となった ということです。さらに別の企業を我が物にしようとする闘争の中でこうした新しい所有者たちの多くが怪我をしたり殺されたりしました。国家の機関は力がな く、ほぼ無政府状態のような状況にひろがったギャング行為の横行になす術がありませんでした。
工場はしばしば操業停止になりました。というのは所有者が勝手にお金を使ってしまい、労働者に賃金が払われな かったからです。ずっと計画経済でやってきて市場経済に移行する準備ができてなかった国にとって、洪水のようにあふれる外国製品は致命的打撃でした。ロシ アの製品は外国製品に対しては競争力はまったくありませんでした。それというのも、その企画や製造は市場経済の原則にはまったく即していませんでしたか ら。国民はロシア製品を買わなくなり、外国の製品に切り替えてしまいました。外国の製品の方が包装がきれいで、センスもよかったですから。ロシアの工場は 競争に勝てず、閉鎖され始めました。物価は数倍になりインフレは始まりました。たとえば私の父はエンジニアでしたが、当時月給が5ドルでした。母は中学校 の教師をしていて月給は3ドルでした。90年代の初めは人々は再び自給自足の生活をしなくてはならなくなりました。家庭菜園やダーチャで大量に野菜やフ ルーツを栽培し、家畜や鶏を飼いました。店ではこういうものは売ってないか、あるいは売っていてもとても高価だったからです。
どうして私はこういうことをお話しているのでしょう?これはわが国を訪れようとしている人たちに、これから行く ロシアという国の人たちがごく最近どんな体験をしたかということを理解しておいていただくためです。もちろん、あれからもう10~15年くらい経ってい て、今では状況はずっと安定していてどんどんよくなってきています。それでも体験してきた苦労は普通のロシア人にその影を落としています。
たとえばロシア人は日本人のようにしょっちゅうニコニコしてはくれません。それに無愛想だったり、疑い深かった り、時には乱暴だったり、いらいらしていたりするかもしれません。あの時代から多くのいい加減な人たちが、お役所のあらゆる部署に住みついています。彼ら は汚職まみれで、往々にして仕事をするのにふさわしい資格も不充分です。ですからモスクワやその他のロシアの町に行く時にはロシア人の友人知人について いってもらうことが一番です。彼らは旅行をより快適で安全なものにしてくれるでしょうし、また観光バスの窓からは見えないロシア人の生活を内側から見せて くれるでしょう。
それでは始めましょう。飛行機がモスクワの国際空港の一つに(たいていはシェレメーチェヴォ2)に着陸しまし た。大きな国際空港ならどこでもそうですが、シェレメーチェヴォ空港は泥棒にとってはとても魅力的なところです。持ち物は常に眼の届くところに置いてくだ さい。トランクは少なければ少ないほどいいですね。理想的なのは小さいショルダーバッグ一つに中くらいの大きさのトランク一つです。バッグを持って歩く時 もよく気をつけていなければなりません。雑踏の中にはよくスリがいるからです。スリはバッグのジッパーをあける手間も惜しんで鋭い刃物で切ります。トラン クがあまり大きくなければ、片手は常に自由でドアを開けたり、必要とあれば自分の荷物を守ることができます。服装はあまりお金がありそうに見えない格好を するのがコツです。高い時計や電子機器は見せないようにしましょう。ビデオカメラやカメラは撮影直前に取り出すようにしてください。公共の乗物の中や人ご みでカメラやビデオを首からかけるのは避けてください。3年前、私の日本人の同僚が地下鉄の中で首からかけていたビデオを盗られました。買い物をしようと して他の人たちから離れた時に、カメラの紐を切られたのです。彼は盗まれた事にすぐには気が着きませんでした。ただなんだかまわりにどっと人が集まってき て、おしあいへしあいしていて、その人たちがさっといなくなった時にはビデオもクレジットカードの入った財布もなくなっていたのでした。帰りの飛行機のチ ケットとパスポートが内ポケットに入っていたのはさいわいでした。警察に行ってもなんにもなりません。こういう場合たいていは警察はなんの助けにもなって くれません。自分だけが頼りなんです。それもよく気をつけていればの話ですが。
さて空港からモスクワ市内にいかなければなりませんね。もしだれも迎えにきてくれないならマルシュルートタク シーで行くのが一番です。これは10人から15人乗りのマイクロバスです。乗り込むときと降りる時には特別に慎重にしてください。乗り込むときにはどろぼ うに対して一番無防備になるからです。両手はふさがっていますし後ろには人が一杯列をなしていて、ぶつかったり押したりしているのですから。
タクシーで行くなら、覚えておかなければならないことは車体の側面にタクシーのマーク(チェックの模様)があるか
らといって、それがタクシーのライセンスを持っていることをしめしているのではないということです。(このマークは店で売っていてだれでも買えるんで
す。)白タクが多く、なにかあってもどこの会社もなんの責任も負ってはくれません。いわゆる「悪徳タクシー」に乗ってしまったら、法外な料金をとられま
す。とにかくタクシーに乗ることに決めたら 乗る前に目的地までの料金をルーブリで決めておくことです。でないと降りる時になって 決めた料金はルーブリ
ではなくてユーロだとか、目的地までの料金ではなくて一キロあたりの料金だったとか言う事にもなりかねません。
さて、やっとバスかタクシーで地下鉄の駅につきました。モスクワの地下鉄の料金は今のところ距離に関係なく均一です。
窓口で切符を買いましょう。ここでアドヴァイスをひとつ。どうしたらよいかわからなかったら(たとえば改札口を通るのに切符をどうしたらよいのかわからな
かったら)モスクヴィッチがどのようにしているかをよく見ることです。
町では英語はあまり通じませんが 話すとしたら若い人の方がよくわかります。町の中心部にある高級ホテルや店や レストランでは英語はよく通じます。お金は米ドルの現金で持って行くのが一番いいのですが、それでなければユーロの現金がよいでしょう。これらはモスクワ ではどこでも一日中どんな時間でもルーブリに両替ができます。空港での両替はレートがよくないので、空港では最低限の額(空港から目的地までの交通費分く らいー100ドル以下)にしておくのがよいでしょう。両替する時には、手持ちの現金をすべて見せたりしないで 最低限の額を手早く取り出してください。両 替には証明書など書類はまったく必要ありません。インターネットでルーブルのドルやユーロにたいするレートを見ることができるので旅行前に見ておくとよい ですね。
最近はモスクワでは和食のレストランが流行しています。もちろんモスクワの和食レストランですから、まずロシア 人の口に合う様に考えられています。つまりすべての料理がロシア風になっているということです。値段と質の点でモスクワで一番よい和食レストランチェーン は「ヤキトリヤ」です。ロシア料理のレストランは当然ですが「マトリョーシカ」「カチューシャ」「ヨールキーパールキ」などロシア風の名前がついていま す。
モスクワ市内を歩く時には次のようなことに気をつけてください。もし、ちゃんと規則に従って歩道や横断歩道だけ を歩くとしても、よく注意してなければならないということです。まず第一に、交通規則を守らないドライバーが多くて歩行者優先もせず、赤信号でも止まらな いことがありえます。第二に信号はたとえば名古屋よりもずっと早く変わります。さらに、ロシアでは右側通行ですから道を渡る時には、まず左側を見て、道の 中央で右側を見てください。また歩行者は水溜りを猛スピードで走る車にしぶきを浴びせられることがあります。
もし普通の観光コースをまわりたいのでしたら、クレムリン(もし運良くチケットが買えたらぜひ武器庫とダイヤモ ンド庫を見てください)さらに、ボリショイ劇場で「白鳥の湖」や[くるみわり人形]を見てください。多くの美術館の中では特にトレチャコフ画廊やプーシキ ン美術館がおすすめです。
普通の観光コースをそれもよいのでしたら、クリムスキーヴァルにある中央芸術家会館にいって、現代作家の美術展 やコンサートをご覧ください。劇場でお勧めなのは演出家のベリャコーヴィッチの[ユーゴザーパド劇場]です。とても人気のある劇団で、俳優のほとんど全員 が日本公演の経験があります。
もしモスクワに友達やお知り合いがあったら、ロシア人の生活の様子を身近に見ることができます。ぜひダーチャに 連れて行ってと頼んでください。ダーチャとは普通はモスクワから車で2〜3時間のところにある、郊外の風景のきれいな場所です。そこでは、たいていなにか 花、リンゴ、いちご、じゃがいもなどが栽培されています。これは今では、以前のように家計の足しにするためではなくて、これは心の平安のためです。この ダーチャにはたいてい小さな夏用の家が建てられていて、休日には家族やお客が集まって食事をしたり、ジャムを舐めながらお茶を飲んだりします。ダーチャは 町の暑さや慌しい生活を逃れての憩いの場所です。もしこの家に暖房があれば、冬にもここでくつろぐことができます。ダーチャには松ぼっくりや木の枝を燃や して湯を沸かす本物のサモワールがあることがあります。ダーチャは森のそばにあることが多く、夏の終わりや秋の初めに野いちごやきのこを採ることができま す。採ってきた野いちごで作るジャムは工場で作られるジャムとはまったく別のものです。採ってきたきのこは塩漬けしたり、干したり、マリネーにしたりし て、新年になるまで冬の間その味を楽しみます。もし、ダーチャにバーニャ(蒸し風呂)があったらぜひ体験してください。体にも心にもたいへんよいものです から。
もしお友達がダーチャを持ってなかったとしたら、森にピクニックにいくとよいでしょう。焚き火をして、炭で焼い たじゃがいもやシャシリクを食べましょう。(もしロシア人の友達がないなら私に電話を!)
店に買い物に行く時にはロシアでは日本のように品質管理ができてないということを覚えておいてください。賞味期 限の過ぎた食品が売られていることはよくあります。困ったことにならないようによく用心してください。
ロシアの伝統工芸品を買うなら、モスクワの真ん中ではなくグジェリやジョストヴォなど直接産地に行って買った方 がよいのです。そこでは種類もはるかに多く、品質もよいからです。またこうした普通の観光客が来ないところへ行くことも楽しい経験となるでしょう。
サロンに参加されたみなさん