第54回ロシア語サロン  2004.12.5

シベリアでのハンティング   アレクセイ・ブーベンシコフさん
 

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 私はノヴォシビルスク生まれです。ノヴォシビルスクは西シベリア平原にあり、ロシアで一番長いオビ川のほとりにある町です。シベリアの首都である人口200万人の大工業都市で文化や科学の中心ですが、町から100〜200キロ離れるともうそこはシベリアのタイガで、北や東に数百キロにわたって森や沼地や川や深い湖があります。そしてこの森はシベリアの自然(獣、鳥、きのこ、ベリー類、淡水魚など)の宝庫です。川や湖の周りには美しい景色が広がり、森では美しく、大きく、危険で、また滑稽でもある様々な動物に出会います。たとえばオオカミ、熊、狐、オオヤマネコ、ヘラジカ、シカ、ウサギ、リス、ハリネズミ、ビーバーなど。鳥では キジ、ヤマドリ、鴨、シロハラサケイ、ガンなど。

 私は自然が大好きで、森に行って川岸をぶらぶらしたり、友人たちと焚き火を囲んで座ったり、夜の森の静けさや朝の鳥の声に耳を澄ましたりするのが好きです。朝、川面にただようもやの中から太陽が昇るのを見るのもいいものです。こうして自然と向き合うとすべての悩みから解放される気がします。また私は銃が好きで手に銃を持つとスリルを感じ胸が高鳴ります。このふたつのことをいっしょに楽しめる趣味、それがハンティングです。残念ながらいつでも好きな時に楽しめるわけではないのですが。

 ハンティングはロシアではとても人気があります。ハンターは狩りに行くと不便な暮らしも粗末な食事も寒さも疲れも平気で我慢します。素晴らしい自然の中でのハンティングのわくわくする楽しさと緊張は日常生活の重苦しさを忘れさせてくれるからです。ロシアの地理的状況はこの素晴らしい趣味を楽しむには最適です。ロシアでのハンティングの種類は多いのですが 一番広く行われているのは銃を使ったものです。昔は人間は生きるために狩りをしましたが 今では楽しみのひとつとなりました。それでは、私が友人たちとどんな風にハンティングをするのかお話しましょう。

 他の国同様、ロシアでもハンティングの時期や動物については法律で厳しい規制があります。春や秋には草原の鳥を、冬や夏には獣や森にいる鳥を撃ちますが まずそれぞれの動物に狩猟の可能な時期や数や場所が定められています。例えば 鳥の営巣地や鳥の数が減っているところでは狩猟禁止です。またレッドブックに載っている鳥や動物の狩猟は厳禁です。レッドブックというのは絶滅に瀕している動植物が載っている本のことです。例えばある種の熊やシカの狩猟はまったく許されません。

 ハンティングに出かけるには一ヶ月ほど前から準備を始めます。最初に一番大事な狩猟許可証を買います。狩猟協会という国家機関で買うのですが、安くはありません。一番安い「鴨狩りに3日間」という許可証でも300ルーブリです。冬にシカやヘラジカを撃つなら1500〜2500ルーブリもかかります。日本円では5万円以上です。ちゃんと獲物が採れたかどうかは関係ありません。3日間で一頭というだけです。3日間が過ぎてしまえば許可証もそれで終わりです。

 さて許可証が買えたらありとあらゆる「楽しい」準備が始まりますが、これはとてもお金がかかります。装備や様々な狩りの小物を買ったり、点検したりしなければなりません。まず何よりも先に銃と銃の保管許可証を点検します。

 私が友人たちと行くのは、秋と春の水鳥の狩りと冬のウサギ狩りです。つまり小さな動物を撃つので、持って行く銃は銃身に施条のない銃です。銃の種類には銃身に施条のない銃と施条のある銃があります。構造や弾薬筒が違うのですが施条のない銃で使われるのは散弾や施条のない弾です。これらは殺傷力が弱く射程距離は50〜100メートルです。施条のある銃(ライフル銃)は射程距離が300メートル以上で殺傷能力の高い弾を使います。これは戦争用の武器を小型にしたもので、こういう武器で狙うのはヘラジカ、イノシシ、シカ、熊、狐、オオカミなど大きな動物です。昔はこれらの動物も施条のない銃で施条のない弾で狩っていたのですが、動物に気付かれずにこっそり近寄らなければ撃てませんから、ハンターも大胆かつ勇敢で腕がよくなければなりませんでした。熊やオオカミやイノシシはもちろん危険な動物ですが、強力な後ろ足を持ったヘラジカもかなり恐ろしい動物です。ハンターにとって一番大事なのは逃げ足が速いことです。いざという時には怒った動物から大急ぎで逃げなければなりません。自分がこの動物の獲物になってしまっては大変です。

 このことに関してはハンター仲間の笑い話があります。ある日ハンターが森を歩いているとすぐ目の前にイノシシが現れました。「よし、撃ってやるぞ!」ハンターは銃を構えて発射しました。目の前は硝煙でなにも見えません。「当たったかな?どうかな?」と思ううちに煙が晴れて、なんと目の前にはかすり傷も負わずにピンピンしているイノシシが!そしてこう言ったのです。「さあて、今度はお前さんが困ったことになったな!」これはロシア語の動詞“パパル”“_____”(「命中する」「困った羽目になる」などいろいろな意味がある)の洒落なのですが。

 200年程前にはロシア人のハンターは「ロガチーナ」という先が二股になった木製の長い槍で熊狩りをしました。でも私たちは現代人ですからご先祖の方法を真似るのは止めておきましょう。

 私は何度もハンティングに行っていますが、自分の銃は持っていませんので友人の銃を借ります。これには様々な理由があるのですが。銃の携帯許可証と使用許可証は持っています。銃は借りるので、そのかわりに私は車の担当です。悪路を走る事ができる、ちゃんと整備された車を用意します。人里離れたところへ行くので車の修理場もありませんし、車が故障したらずっと森にから出られなくなってしまいます。その他の準備については、誰がどんな食料や装備を持って行くかを取り決めます。持って行くものは食料、テント、ゴムボートなどです。各自で持参するのは銃と弾、狩猟許可証です。弾薬の量はハンターの腕前とどんな獲物を狙うかによって違ってきます。さて、これで必要なものはすべて買い、点検し、積み込みました。いよいよ出発の日です。私たちがよく行くのはノヴォシビルスクから50キロほど離れた場所です。森の入り口あたりで、小さな曲がりくねった川の支流から水が溢れ出しチョロチョロと流れています。渡りの時期には鴨やガンは眠ったり餌をとったりするために羽を休めます。普通は鳥猟は秋は9月の第二土曜日から、また四月の第二土曜日から解禁になります。つまり鳥が雛鳥に孵化の後 暖かい土地に渡る時期と帰る時期です。

 私たちは金曜日の夕方出発し、岸辺にテントを張ってキャンプします。朝、飛び立つ前に餌を採る鳥たちを脅かさないように 翌朝日の出前に起きるためです。

 翌朝は、岸辺のアブラガヤの茂みに隠れたり、ゴムボートに乗って川に漕ぎ出したり、それぞれのハンターが自分の位置につきます。鴨やガンの狩りには様々な方法がありますので、いくつかご紹介してみましょう。

追い込み猟

 晩秋に北方の鴨が渡るころ、湖や池には様々な鴨たちが湖や池にやってきます。鴨たちはいつも岸からずっと遠いところにいますので、撃つのは簡単ではありません。だいたい120〜150メートルくらいのところに人やボートが近づくと鴨は逃げてしまいます。小さな池や湖でしたらボートがなくても追い込み猟をすることができます。ハンターの一人が一方の岸に隠れ もう一人が池の周りを歩いて鴨たちを反対側の岸の方へ追うのです。

 もし大きな湖でしたらボートがなければどうしようもありません。この場合は岸のどのあたりへ鴨を追い込むとよいかをよく見定めておいて、ここへ鴨に気付かれないようにこっそりと一人のハンターが隠れます。もう一人のハンターは反対側の岸からボートで漕ぎ出して鴨たちがしだいにハンターが隠れている場所の方へ行かざるをえないようにしむけます。隠れていたハンターは近づいてくる鴨を撃ち始めます。鴨は驚いて反対方向へ飛び立ちますがそこにはボートに乗ったハンターが待ち構えていて撃ち始めます。戦果はハンターの腕前と驚いた鳥たちが飛び立つ方向次第です。もし全部がうまくかみ合えば 一度で一日分の獲物を得る事ができます。

鴨に近づいておこなう狩り

 この楽しいハンティングはずっと水の中で行われますので、ハンターには厳しい条件が課せられます。まずなによりも泳ぎが達者でなければなりませんし、オールの扱いがうまくて、強靭な肉体を持ち我慢強くなければなりません。

 湖や川など水のあるところは状況が変わりやすいところです。静寂に包まれ鏡のようだった水面が一瞬にしてどこから吹いてきたのかわからない突風に煽られてさざなみができ、数分後にはもう波が打ち寄せてくることがあります。湖や入江で水鳥を撃つにはいろいろな方法があります。こういうハンティングは精神を鍛え、勇気、度胸、機転を利かせること、物事に動じないなど人間の資質を高めます。

 近づいて行うハンティングは時期や場所によって様々な方法があります。鴨たちが岸の茂みにいる時にはボートに乗って行きます。軽いボートに二人が乗りこみます。船首にはハンターが、船尾にはこぎ手が乗ります。もし浅いところでしたら長いオールか竿を使ってボートを操ります。このハンティングが特におもしろいのは 沼地の中を通る川で アブラガヤとかアシの茂っているところで行う時です。川の流れに沿って下って行く方がよいのです。こういう狩りに使うのはどんなボートでもよいのですが一番適しているのはヤマナラシの木をくりぬいて作ったボートです。(シベリアではオーブラスとかヴェートカと言います。)この狩りで大事なのはとにかく音を立てないことです。オールが船べりに触れて音を立ててはならないしオールの水はねの音も極力立てないようにします。そして絶対にしゃべってはいけません。動物や鳥は銃声よりも人の声をずっと恐れるものなのです。

 この狩りは実におもしろいものです。草の生い茂った、曲がりくねった川を漕いで行くと、曲がり角を曲がる度に毎回あっと驚くような思いがけない景色が見えます。用心しながら、音を立てないようにして、オールの水はねも最小限にしながら 曲がり角を過ぎて静かな次の流れに入っていくと そこには ほんの15歩くらいのところに、まったく身の危険をかんじることなく、のんびりと泳いでいる鴨たちが見えるはずです。茂みの蔭から漕ぎ入って来たボートに気がついて鴨は鳴きながらさっと舞い上がります。でも2羽の鴨は撃つ事ができるでしょう。獲物を拾って、落ち着いて弾を込めなおし、先に進みます。このようにして川をボートで進み、次々と姿を現す自然の景観を楽しみながら大好きな趣味(ハンティング)を満喫することがわけです。

 晩秋になると鴨は群れになっていて、湖など広いところで狩りを楽しむ事ができます。こういう狩りには特別な浅いボートを使います。このボートにはアブラガヤ、アシ、草などを使ってカモフラージュを施し、浮島に見えるようにします。このボートで鴨に近づいて行って、もし彼らが用心しているのに気がついたら、じっと止まって鴨が再び落ち着いて餌を採りだすまで待っていなければなりません。鴨を撃つために群れに近寄るのは、太陽を背にして音を立てずに近寄ることができれば、天気のよい日の朝か日没が適しています。

秋の狩り − デコイ(木製のおとりの鴨)を使って

 冬に近くなると、鴨は群れになって川の浅瀬と浅瀬の間の深いところや、大きな川の砂地や あまり水量の多くない湖や小川にいるようになります。この時期にはデコイを使って鴨を撃つことができます。まず、浅瀬や砂地のところにハンターのための隠れ場所を作ります。一番いいのは沼地の表面がでこぼこしたところに直径85〜90センチの樽を埋めておいて隠れ場所とすることです。この樽の周りにはアシをつきさしておいて、これで隠れ家は完成です。狩りのためのこういう準備には時間も手間もかかりますが=A烽オ2-3羽の鴨を採りたいなら苦労をする価値はあります。この隠れ家のそばにデコイを置いておきます。このデコイを使った狩りは真冬になるまで行われます。ガンの狩りにもこの方法は使われます。これはスリルが好きで勇敢な人に適した方法です。

氷に乗っているガンを撃つ

 シベリアのクラスノラルスク州のアンガラ川では春にとても面白くて危険なガン狩りが行われています。アンガラ川の氷が融けだすと割れた氷の固まり(地元ではチョークラと言います)が時速8〜10キロで流れ出します。ちょうどこの時期にここに鴨やガンがやってくるのです。鳥たちは流れるチョークラの上に乗って氷の中に凍っている藻や水草をのんびりと食べています。勇敢なハンターは命がけで ボートに乗って川の中の島に行き、ボートを岸に引き上げて チョークラが一番近くを通る場所(島の先端)に陣取り、隠れ場所からチョークラの上にいるガンを撃ちます。何羽か撃ったら、ハンターは急いでボートに乗り流れるチョークラの中から獲物を拾い上げます。鴨の狩りはこんな風に行われていますが、これでもまだほんの一部にすぎません。

 冬になると、私たちはウサギ狩りに出かけます。こちらの準備はずっと簡単で時間もとりません。必要なのはウサギ狩りの許可証と銃と健脚です。この狩りをするには長時間にわたって、草原や森を歩いたりスキーで行ったりしなければなりません。ウサギ狩りのやり方のひとつをご紹介します。

足跡をつけて

 雪が降りました。ハンターは家を出てウサギの足跡がすぐ見つかる場所へ行きます。(草地のはずれ、果樹のあるところなど)足跡が見つかったら、さあ最高におもしろくてドキドキする狩りの始まりです。けもの道や足跡を追って行くのです。ウサギは足跡をくらますために、ありとあらゆる手を使ってきます。たとえば、あるところまで行ってからくるりと振り向いて今来た方へ引き返し大きくぴょーんと跳んで茂みやでこぼこしたところに着地し足跡を隠してしまいます。あるいは、何度も道路(人や車が通るので足跡がわかりにくい)を横切って走り、また大きく脇に跳んで、雪が風に吹き飛ばされてしまうところや地表が氷に覆われていて足跡がわかりにくい場所に着地したりするのです。

 こうしたすべてのトリックを考えに入れて足跡をつけるのはなかなか大変です。ですから 足跡をつける時には 常にその足跡から少し離れたところを注意して見ながら、そして周りによく気をつけながら追いかけなければなりません。ウサギの足跡を注意深く見ない人はたいていウサギを逃してしまいます。ウサギはしばしば円を描くように逃げて、前に通ったところに戻り自分の足跡のすぐそばで休んでいます。ハンターは遠くに続く足跡を見てウサギの巣はまだずっと遠くだと思うのですが、ウサギはすぐそばにいて自分の追跡者をじっと見ていいます。そしてハンターをやり過ごして逃げてしまうのです。ですから、足跡のそばでウサギの隠れ家なりそうなところはすべて注意してよく見ておかなければなりません。ウサギが足跡をくらまそうと知恵をしぼって縦横無尽にかけまわった後を見てその行方をつきとめようとすることにはなんの意味もありません。それよりウサギが餌を得られそうなところを迂回して まっすぐに続く足跡を追った方がずっと利口ですし時間の節約にもなります。もつれた足跡はそのままにして 比較的まっすぐに続いている足跡を追って行くと、ウサギが足跡をごまかそうとして脇のほうへ跳ぶという最初の試みをしている場所がみつかります。時にはウサギはこの場所のすぐそばにいることがありますが、こういうトリックを何度もくりかえすことの方が多いようです。こういうトリックに気が付いたらまず足を止めてじっくりと足跡の方向を見定め、そばに隠れ家になりそうなところはないかどうかよく見なければなりません。ウサギはいつ思いがけないところから跳び出てくるかわかりません。足跡が続いているところとはまったく違うところから出てくるかもしれないのです。灰色ウサギやユキウサギはなかなか見つけることが難しく気が付いた時にはもう逃げられてしまっています。冬のシベリアではこんな風にウサギ狩りをしています。

 ハンティングに出かけてもし何も獲物がとれなかったとしてもかまわないのです。肝心なのは獲物ではありません。数時間、あるいは数日間を自然のふところに抱かれて過ごせばエネルギーを得る事ができ心は穏やかになってその効用は次回また自然と出会うときまで数週間は続くのです。沖縄で一週間の休暇を過ごしたのと同じくらい すべての疲れが取れてしまうのです。(ちなみに私はまだ沖縄に行ったことはありませんがコートダジュールには行ったことがあります。)