お祝いには必ずパイが
増
田エレーナさん
第四十四回ロシア語サロンは、ゲストに増田エレーナさんをお迎えして六月二十三日(日)、愛知民主会館で 開かれました。お話のテーマは「ロシア料理」で、エレーナさんは自慢の腕を振るって手作りのケーキをたくさん作ってきてくれ、二十八名の参加者全員が美味 しくいただくことができました。なお今回はロシア、ウクライナの方五名も参加しました。
〔ロシア料理について〕
ロシア料理には長い発展の歴史があります。昔から変わらないものもあれは、外国から取り入れたものもあり、すっかり忘れられてしまったものもあります。
食物についての一番古い文献によると、十六世紀のロシア人たちは、今とだいたい同じような食材を使っていて、蜂蜜酒やビール、クワスを作ることは できたようです。紅茶やヴォトカはまだ知られていませんでした。
十六世紀に書かれた「家庭訓」という面白い本があり、これによってピョートル大帝以前のロシアにおける裕福な市民たちの衛生レベルがかなり高かっ たことがわかります。今同様のテーブルマナーもすでに確立していましたし、多くの保存食の作り方も知られていました。
伝統ある 「ブリヌィ」
ロシア料理は、東洋の香料、ジャガイモ、トマト、海の魚など新しい食材との出会いによって発展してきました。今ではそれなしでのロシア料理など考えられ
ません。十三世紀から十五世紀にかけ、ロシアは「タタールのくぴき」に苦しみましたが、侵略者としてやって来たこれらの外国人たちの習慣を、ロシア人は軽
蔑して受け入れなかったので、彼らの料理はロシア料理には影響を与えませんでした。
ピョートル大帝の治世の初期には、オランダ、ドイツ、フランス料理がロシア料理に影響を与えましたが、フランス料理も多くのものをロシアから採り 入れました。例えば、料理を順番に出すという給仕の方法です。クレープもロシア料理の「ブリヌィ」を採り入れたものです。
ロシア料理には、小麦粉から作るものがたくさんありますが、パンはロシア人にとって特別大切なものでした。それはパンに関する多くの諺があること からも分かります。
ピョートル大帝の時代にロシアにコンロが伝わるまでは、全ての料理は大きな暖炉の中でしていました。この大きな暖炉では、素晴らしいパンやパイを 焼くことができました。
昔のロシアでは、お祝いの席には必ずパイがありました。私たちの祖先は、名前の日のお祝いには必ずキャベツ入りのパイ、結婚式には必ずクールニク といぅパイを作りました。(クールニクは、さまざまな詰め物をした背の高いパイ)パイやその中身の種類は数えきれないはどです。
有名なロシアのクレープ「ブリヌィ」も、ずっと昔から食べられており、キリスト教が伝わる以前からあった「マースレニツャ」というお祭りで太陽の 神にお供えされたものでした。
その他の小麦粉から作る料理で人気があるのは「ペリメニ」と「ワーレンキ」ですが、どちらも東洋から伝わった料理のようです。ペリメニは餃子のよ うなものですが、焼かないで熱湯でゆでます。中身は肉、タマネギ、ニンニクです。多くの家庭ではペリメこの皮に中身を包むのは家族みんなでする作業なので す。
カーシヤ(お粥)はロシア人の大好きな料理で、穀物にバターを加えて水や牛乳で煮たものです。東スラブ民族には、五世紀ごろ、敵と和解する時、一 緒にカーシヤを煮て食べる習慣がありました。今でも「あいつとはカーシヤを煮ることができない」というロシア語の表現は、この習慣からきたものです。
米がロシアに伝わったのはかなり後のことですが、バターを入れた米と牛乳のカーシヤは今でもよく食べられています。日本人の夫も時々、このカーシ
ヤを朝食に食べますが、バターや牛乳、砂糖は入れたがりません。
スープはロシア料理の誇りです0まず根菜、タマネギ、香料を入れた魚のスープ「ウハー」。これは一番古くから食べられているスープで、多くの種類があり
ます。
ずっと昔からロシア人は「酸っぱいシー」と呼ばれる発酵したキャベツ入りのスープを食べていました。発酵したキャベツは、生の
キャベツよりも、より多くのビタミンやミネラルを保っており、長いロシアの冬に欠かせないからです。
外国で、最も知られるロシアのスープといえばボルシチでしょう。これは、もともと、ウクライナ料理で、必ずスビヨークラ(ビーツ)を入れるのが特徴で
す。
その他に、ロシアでよく食べられているスープに「サリヤンカ」と「ラソーリニク」があります。れ にはピクルスのつけ汁が入っています)面白いことに、これらのスープは、二日酔いに効くスープとして考えだされたといいます。また、冷たいスープとして 「バトビーニャ」や「アクローシュカ」があります。
ロシア人は肉が好きで、カツレツ、焼肉、ステーキが好まれます。ビーフストロガノフもロシアで考案された料理です。魚は、沿海州ではよく食べます が、ロシア中央部ではあまり人気がありません。ただ塩漬けのニシンだけは例外で、みんな大好きです。
サモワールを囲んだロシアのお茶会のことを聞くと、ロシアではずっと昔から紅茶を飲んでいたように思えますが、ロシアに初めてお茶がもたらされたのは一六 三六年のことでした。最初はとても高価なものだったので、全国的に飲まれるようになったのは十八世紀になってからのことです。それまでロシアで飲まれてい たのは薬草茶や蜂蜜、クワス (今でも飲まれています)などです。
ロシアには以前、結婚式や祝日、新年などに、それぞれの決まった料理がありました.残念ながら今では、多くの伝統的なお祝いの料理が忘れさられ、どんなお 祝いでも、多くの家庭ではいつも同じような料理ハカツレツとヴィネグレットサラダ〕 です。でも、それぞれの家庭にはお得意の料理があります。その作り方 も様々です。